醜いあひるの仔の定理
災害には多くの要因があるという事がよく言われるが、その要因の分析について考えてみよう。
 災害の要因の分析に限らず、一般に分析は詳しい方が良いとする傾向がある。果してそうであろうか。
 ここにおもしろい定理がある。この定理は、ハワイ大学名誉教授の渡辺慧先生が「醜い」あひるの仔の定理」と名づけられたもので、その内容は「すべてのものは分析を細分化していくとしていくと同じ度合の類似性をもっている」というものである。

これは,各特徴量を全て同等に扱っていることにより成立する定理.すなわち,クラスというものを特徴量で記述するときには,何らかの形で特徴量に重要性を考えていることでなる.この定理は,特徴選択や特徴抽出が識別やパターン認識にとって本質的であることを示唆している.

 この定理の証明は、数学的には簡単なものであるが、その意味は重大である。この定理の名前はご存じのアンデルセンの醜いあひるの仔の話にちなんでいるが、この定理によるとあひるの仔と白鳥の仔との違いを細かく分析していくと、その構成する要素の数は同じで、類似性は同じとなる。すなわち、白鳥の仔とあひるの仔とは区別できないことになる。
 現実には私たちは簡単にこの両者を区別することが出来る。それはなぜであろうか。私達は無意識にではあるが、あひると白鳥とをみくらべたときにその要素、例えば,羽の色とか首の長さとかを重点的に抽出してくらべているのである。
 この重点的に抽出するというのが、ものごとを分析(あるものを他のものとわける)する際に欠かすことが出来ないものなのである。
 重点は要素の重要性によってきまり,重要性は価値体系いいかえれば分析の目的によって決定されるのである。
 その要素の体系(要素の大きさと位置づけ)が本当に価値を有するかどうかは,一般にはその有用性によって評価される。
 災害の分析に話題を戻すと,分析に使う要素の大きさや深さはその分析がなにに使われるのか,また,その結果が目的に即して有用であるかをよく考えて決定されなければならない。
 例えば,「墜落,転落」という分類はそれのみでは,政府や業界が災害防止対策の重点を決定するときには有用であっても,個々の現場での具体的な災害防止対策の樹立には不十分であり,この場合には,「何から墜落したのか」とか「なぜ墜落したのか」について更に細かく深い情報が得られる分析でなければならないのである。
 しかし,あまりにも分析が細かくなると分析対象の有限性と災害の偶発性によって有用性が低下するので,災害分析にあたっては,最適な要素の大きさと深さとが選ばれなければならない。